歯牙摂食癖(TCH)とはTooth Contacting Habit の略で食事以外で上と下の歯を接触させる癖のことです。上下歯列接触癖とも呼ばれます。つねに首や肩が凝っている、口を開けるときにあごの関節の音がしたり開けると痛いという方の多くにTCHはみられます。食事で物を噛むとき以外は上下の歯は触れないのが正常で、リラックスした状態では上の歯と下の歯は1~3mm程度離れているのが良い状態とされています。
このことをお伝えすると「口を閉じるときは咬んでいるのが普通でしょ?」と驚かれる方が結構いらっしゃいます。何もしていないときの口の状態なんて意識したことがないという方のほうがはるかに多く、気づきにくいものなのです。TCHがあるかどうか確かめるための簡単なテストがあります。上下の歯を当てないで5分程度口を閉じてみてください。つい咬みたくなる、なんだか落ち着かないという方は普段上下の歯を当てている、つまりTCHがあると思われます。
このTCHは頻繁に歯をあてている何気ない癖ですが、特に強くかまずにとも歯が当たっているだけで多くの不調をもたらすことが分かってきました。上下の歯が正常よりも長い時間接している、ただそれだけのことが実に多くの問題をひきおこします。上下の歯の接触している時間は一日のうちで20分以内が正常と言われます。この時間は食事の際に食物を咀嚼して歯が触れる時間を含みます。咬んでいる時間が長くなると様々な症状が現れます。まず歯そのものの症状として、歯が激しく擦り減る、亀裂が入る、歯根が露出して歯がしみる、歯の詰め物がよく取れる、などがあります。また歯が当たっているときには歯の根を支えている歯根膜が圧迫されるため血流が障害され、歯根膜の血流障害が続くと歯の知覚過敏や咬合痛(咬むと痛い)、歯が浮いた感じがする、などの症状が現れることがあります。また歯根膜の血流障害は歯周病の進行を早めてしまいます。また、歯が接触することで顎関節が圧迫を受け、顎関節の血流が障害されることで顎関節症の原因にもなります。それから、歯が当たるときには例え軽く当たっただけでも閉口筋群(口を閉じる筋肉)は緊張します。閉口筋群が緊張している時間が長くなると連携して働く首や肩の筋肉もまた緊張してコリが生じ、しつこい肩こりや首のこりとなります。そして首の筋肉の過剰緊張がつづくと頸部を走行している脛骨動脈を圧迫して血流障害を起こし、めまいがすることがあります(頸性めまい)。また、閉口筋群の一つの側頭筋の過緊張が続くと緊張性頭痛を引き起こします。
ではこのTCHにどう対処したらよいのでしょうか。それはまず、自分自身にその癖があることを認識するところからはじまります。日常生活でふとした時に、あ、自分は上下の歯をあてているなと気づいたときに速やかに上下の歯を離します。それを忘れないため、目につくところに「かまない」、「歯をはなす」などと書いた付箋を部屋の目につくところにはっておく、リマインダーという方法も推奨されています。最初はなかなかうまくいかなくとも何度も繰り返して行うことで癖は矯正されます。また、舌の位置を意識するのも有効な方法です。安静時の舌には正しいポジションがあります。唇は軽く閉じて、歯は二ミリほど離れていて、舌はぺたりと上あごに触れていて舌先は上の前歯の裏の少し手前にあるのが正常です。かんでいるな、と気が付いたら自分の下が上あごに触れているか確認してみる、それを繰り返すうちにTCHは矯正されます。まずは気づくことからはじまります。